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南極星、北極圏へ フィンランドの秋 - 後半 -

サーリセルカのApartments Kuukkeli(アパートメント・クーッケリ)。ここに1週間、滞在した。各部屋には煙突が

イナリからバスでサーリセルカへ。ウイークリー・アパートに1週間、滞在した。

モダンな外見の近代的なアパートなのだが、イナリのコテージ同様、サウナも暖炉もある。サウナもそうだが、アパートに暖炉があるというのは驚きだった。薪は薪置き場から自由に取って来られるようになっている所もあるが、ここでは部屋の外の物置の中に、薪と着火剤が積み上げてあった。薪はよく乾いた白樺だ。

やめられない楽しさ、「大人の火遊び」。暖炉でソーセージを焼く

部屋の中で火を燃やすのだから、危ないといえば危ない。しかし、フィンランド人にとって、「サウナと暖炉がないなんて......(ワサビ抜きの刺身のよう)」ということなのだろう。特にヘルシンキのような都会から秋の行楽地に来ると、暖炉は欠かせない楽しみの1つのようだ。

暖炉に慣れないわれわれは、うまく火がつけられずに部屋に煙が充満し、2回も火災報知器を鳴らしてしまった(暖炉を使う時は、煙突の弁が開いているかどうか確認しましょう)。

慣れてくると、うまくできるようになってきて、パチパチ燃える火を見ていると、いつまでも見飽きることはない。薪に火が移って、うまく燃え始めると、薪のあちこちから火が出てきて、全体を炎が包む。

火は生き物だ。「大人の火遊び」が面白くて、次々に薪を足して、時々はソーセージを直火で焼いてみる。暖炉は濃密で豊かな時間を与えてくれる。おまけに火を消してからもずっと温かい。

部屋にはオーブンをはじめとする調理器具、食器、食器洗い機、洗濯機、乾燥機、コンピュータにインターネット、すべてが完璧に揃っている。食料や日用品はすぐ近くのスーパーで買えるし、まったく不自由はなかった。

食べ物でおいしいのは、スモークサーモン。大きな切り身が驚くほど安く売っている。

面白かったのは「Viili(ヴィーリ)」。ヨーグルトのように見えるが、スーパーの人に聞くと「ヨーグルトではない」と断言。開けてみると、上に膜が張っている。私が「かき混ぜたらいいんじゃない?」と言い、母がかき混ぜると、ものすごく粘り、長く垂れて食べにくくなった。自分では、かき混ぜずに食べてみると、それほど垂れなかった。

「これは一体、何?」とインターネットで検索するとフィンランド人の書いているウェブサイトが見つかり、ヨーグルト菌とは別の菌で発酵させた乳製品、と説明されていた。「Very important not to stir. If you stir, very unpleasant to eat(絶対にかき混ぜないこと。かき混ぜたら非常に食べにくくなります)」と書いてある。ご丁寧に「持ち運びの時に揺らしてはいけない、中の層を崩してはいけない」という注意書きに加え、「スーパーのレジではヴィーリの扱いに十分注意しないことがある」という文句まで書いてあった。味はヨーグルトだが不思議な粘りがあり、もちもちした生麩のような食感だ。

黒パンにスモークサーモンをたっぷり挟み、サンドイッチに

スーパーの近くという場所が便利だったので、このアパートにしたのだが、林の中にはログハウスも点在している。ログハウスは大人数向けのことが多いのだが、大家族で泊まる場合、雰囲気のあるログハウスにしてもいいだろう。ログハウスといっても、中の設備は近代的で、完備している。

サーリセルカはスキーなどのウインタースポーツやオーロラを見るのに、人気の観光地だ。秋の紅葉の季節もにぎわう。ヘルシンキからイヴァロへの飛行機も、行楽気分でうきうきした様子のフィンランド人でいっぱいだった。

白樺のコップ、ククサ。木目はオーロラのように見える

フィンランド人が秋の行楽で何をするかというと、一番ポピュラーなのは、山の中をひたすら歩く。鮮やかなレインウェアに身を包み、帽子をかぶって両手にはストックを持ち、リュックか腰に、ククサ(白樺のコップ)と温かい飲み物を入れた魔法瓶をぶら下げ、速歩でさっささっさと歩く。雨でもまったく構わない。晴れても曇っても雨でも、かなり長い距離をひたすら歩く。

山ではお互いに挨拶を交わすのは世界共通で、すれ違う人同士、「ヘイ」「ヘイヘイ」(こんにちは)と挨拶する。皆、自然の中を歩くのが実にうれしそうで、楽しそうだ。

フィンランドでは「山」といっても、大分、イメージが違う。緩い登り下りはあるのだが、ほとんどが平らだ。頂上にはケルンが積んであるが、広い平地のように見え、「山頂」というイメージからはほど遠い。尾根も広々としていて、どこが頂上でどこが尾根なのか、よくわからないのだ。

しかし、低い山だとはいっても、ここは極地なので、少し高度が上がっただけで森林限界が来てしまう。下の方は緑の針葉樹林がずっと広がっているが、山の上の方に生えているのは白樺の類の灌木だけだ。それも、上には伸びられないので、地面を這いつくばるようにして枝を伸ばしている。極地の自然の厳しさがわかる。
山を下る。山の下には針葉樹の林が広がり、その中にサーリセルカの街がある散策路を歩くフィンランド人。夫婦や家族連れ、友人同士、時には犬も一緒だ

サーリセルカには広大な国立公園があり、いくつも散策コースがある。道にはわかりやすい標識があり、よく整備されている。山の頂上まで行ったり、湿地をぐるっと回ったり。フィンランド人にならって晴れの日も雨の日も、国立公園の中をいろいろ歩き回るのが毎日の日課となった。

イナリに続き、サーリセルカでも天気はあまり良くない。

母はイナリで買った銀の鈴をレインウェアに付け、鈴を鳴らしながら歩いた。「魔除けの鈴」だそうだ。

赤く紅葉したナナカマド

サーリセルカの山歩きで魅了されたのは木々の紅葉とは違う、ミクロな紅葉の「色の祭典」だ。

9月半ばにヘルシンキに着いた時、白樺の木は紅葉が始まったばかりだった。緑の葉の中に黄緑色と黄色が混じって、秋の木というより、春の花レンギョウのようだった。それが、北上してイヴァロまで来ると、紅葉はずっと進んでおり、木全体が真っ黄色になっていた。太陽の光を集めたような明るい黄金色に、真っ白な幹が映える。しだれ桜のように、黄色い葉を揺らしていた。中にはすでに散っているものもあり、サーリセルカではほとんどが散りきっていた。

フィンランドの紅葉の最盛期には、黄金色に染まった白樺の下でブルーベリーが真っ赤に紅葉し、夢のように美しいという。赤と黄色の、どんなにか非現実的な世界だろう、ということは想像できる。

華やかな白樺の葉が散ってしまうと、枯れ木のように見える裸木が立ち並び、一見、寒々とした、茶色の荒涼とした景色が広がっているように見える。しかし、足元には、もう1つの紅葉の風景があった。

森林限界ぎりぎりに生える、もみの木と灌木。山頂へ向かって歩く

そこは足の踝ぐらいの高さの世界。身を低くして地面に目を近づけて見ると、ヒースのピンクの花、リンゴンベリーのつややかな緑の葉と赤い実、ブルーベリーの赤く紅葉した葉に青い実、白や赤や緑の苔など、いろいろな色が混じり合う。色とりどりの花畑のようだ。クロースアップで写真を撮ると、紅葉の林のようにも見える。

紅葉とは死へのプロセスだ。植物にとって必要な要素が破壊されることで起きる現象だ。それが、なぜこんなにも美しいのだろう。

トナカイの好きな白い苔。崖の上なので、まだ食べられていなかった赤い苔が美しい


灌木の下の茂みを間近で眺めると、色とりどりの花畑のよう。赤く紅葉しているのはブルーベリー、緑の葉はリンゴンベリー赤い実のリンゴンベリー可憐なヒースの花

パンをねだって近くまで来たクーッケリ

山歩きをしていると、クーッケリという鳥やトナカイに会えるのも楽しい。

クーッケリはヒヨドリぐらいの大きさで、フィンランドでは「幸運の鳥」とされている。意外に人なつこく、人間を恐れない。道を歩いていると、近くの木に留まっていたり、つがいの2羽が木立を飛んでいるのをよく見かけた。とても身近な、「幸せの鳥」なのだ。

トナカイの群れ。子供もいる。白や茶色で、しっぽは白い
フィンランドといえばサンタクロース、トナカイ。トナカイの群れは広大な山で放牧されており、自由に草や苔を食べている。非常に用心深く、近づこうとすると草を食べながらじりじり後退し、一定の距離以上は詰めさせてくれない。かなり接近してみたところ、頭を上げてずっと警戒していたリーダーらしき1頭が「ブオッ、ブオッ、ブオッ」というほえ声を発し、群れ全体がカツカツと蹄の音を立てて走り去ってしまった。意外な速さだ。草を食べているトナカイはインドネシアのヤギと変わらないが、原野を走るトナカイは格好良く、美しい。

毎日、山歩きをしていると、1日1日、秋が深まり、冬が近づいているのを感じた。わずかに残っていたベリーの実や赤い葉が落ちて、どんどん少なくなっていく。どれだけ着込んでいても暖かく感じず、顔がこわばるほど空気の冷たい日もあった。

紅葉したブルーベリーに霜が下りた

サーリセルカを出発する日には、ついに気温が氷点下となって霜が下りた。屋根も草も真っ白になり、雨が降った跡の水が凍っていた。紅葉したベリーの葉は霜で白く縁取られ、真っ赤なリンゴンベリーの実はそのままフローズンベリーとなっていた。

サーリセルカでも毎晩、オーロラが出ていないか、空を見ていた。薄雲がかかっていることが多く、母は「オーロラが出るには、もっと星がキラキラしていないとダメ」と言う。イナリの最初の夜以来、オーロラは見られなかった。

代わりに、星を眺めた。星座の基本ともいえる、北極星の探し方をすっかり忘れてしまっていて、インターネットで検索すると、北斗七星の柄を伸ばした先とあった。しかしそれだと、日本で見るのとあまり変わらない、空のかなり低い位置になる。でも、その辺りなのだろうと思っていたが、「やはりおかしい」ということになり、もう一度調べると、正しくは北斗七星の柄杓(ひしゃく)の先だった。柄杓の先を約5倍の長さに伸ばすと、ほとんど天頂に1つの星があった。大きな星ではないが、動かず、しっかりとした輝きを放っている。あれが北極星だ!天頂の北極星を見つめていると、言い知れぬ感動を覚えた。

サーリセルカでの最後の晩、再びオーロラが現れた。

北斗七星を中心にして激しく動き、北斗七星の上部には横一直線の光の帯、下部には別の光の帯が虹のような半円形になってかかった。地平の近くでも、緑がかった白い帯が激しく動き、時々、一部分が非常に明るく輝く。明るい光の縦線が空に現れたり、横に伸びた帯がカーテンのように裾をひらひらさせたりした。母が起きて来た時、動きは一番、激しくなった。

オーロラは死者の霊、そうかもしれない。亡くなった祖父母はアラスカでオーロラを見て感動し、「もう一度、見たい。オーロラは言葉では説明できない」とずっと言っていた。フィンランドの空で祖父母の存在を感じ、2人が「サヨナラ」と言っている気がした。

ヘルシンキに着き、「気温20℃」にびっくりした。まるで南国に来たようだ。暖かいし、木も大きくて、緑の葉が茂っている。サーリセルカでは終わってしまった白樺の紅葉がヘルシンキでは最盛期なのではと期待していたが、まだ緑の木が多く、当てが外れた。

この年(昨年)は記録的な猛暑で、「扇風機が売り切れた」とアラビア・ファクトリーで聞いた。

ヘルシンキの街を歩いていて、「オランウータン」に出会った。こんな所で会えるとは思わなかった。トナカイの国からオランウータンの国へ、北極圏から南半球へ帰ろう。


ヘルシンキの街で見つけたオランウータン。トナカイと一緒に

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